ワイン樽は柾目取なのです。どうして柾目取りするのかわかりますかと、得意になり、説明が続く、醤油,味噌,酒、漬物樽は
板目材を利用し、水汲み桶,寿司桶、おしつは吸湿,乾燥の繰り返しの多い収縮率の小さい柾目で利用し、
密度の小さい柾目と密度の低い早材部と晩材部が交互に桶の周囲に並び利用されています。
この利用の方法は年輪に沿った方向(接線方向)よりも年輪に直角方向(半径方向)の膨張,収縮1/2〜1/3小さいことによる。

 池田町にも30数年前まで、桶屋が何軒かあったが7丁目の桶屋のものは、しめが悪く水漏れがするとか、
ゆがんでダメとか木の早材部と晩材部を専門技工家でも見分けが難しいのだと思いました。

 オークは環孔材であることは先に述べたが、環孔材は年輪幅が狭いと密度の高い木繊維の幅が狭くなり、
材の密度は低下し強度も落ちるが割れや曲がりの危険性は少なくなることから利用しやすくなる。

 ところが、年輪幅が広いということは、成長が良い木ということになる。年輪幅が広いと材は軟くなると、思うのが一般的なので
どうしても理解ができない。
このことを良く利用していたのが、馬橇であり、台木は割り材の柾目取りで作りました。ミズナラの割り材だと目に沿って割れ、
また硬く丈夫で弾力性があり、しかもまげやすく滑り良く、馬橇になってからのその後のひび割れも少なく,接地面の部分も均一に
磨耗するからなのです。このようにいいとこずくめのミズナラですが、産地により良し悪しがあり良質のミズナラの入手できるかどうかが、
橇のできばいを決定した。

 馬橇製作を業としていた方も、池田町には数件あって、子供ながら興味があった。
オークは農家の人と深い関係があって生活の糧になくては成らない木だった。

 何時しか古老が私の前に現れて昔話を始めた。カシワ、ミズナラの森は、町内にいくらでもあったといい、当時は開拓の邪魔なので、
大木は切るのに大変だから、根元に小枝を積み、木を焼いて枯れてから鋸で切ると、楽に始末ができたものだ。と笑顔で話すのだから、
現代人の私達には創造のつかない森が存在していたのだと思うのです。

 明治林業逸史でも北海道のナラは一時樽材に輸出された時期があったのとインチ材として大量に輸出しジャパニーズオークとして
認められていたという。タンニンの採取で切られ、戦後は燃料として、木炭用として切られ、草地造成で切られ、
現在は萌芽や実生のオークが細々と生育している状況です。

 タンニンは日本皮革株式会社池田工場でナラ類皮の消費は毎年400万貫(15,000t)の大量だった。この原料はご存知オークです。
なかでもカシワがよく1年間で3,000haのカシワが皮を剥かれたのだからたちまちなくなっていったものと思います。
有効利用としては、タンニン採取後の残滓焙焼の灰は製壜用に適していて、日本麦酒は進んで使用したのだから、
捨てるものがなく利用していました。

 当時は馬を利用した造材なので、余分なものは切らないし、タンニン用の剥離した皮は工場に出荷し、木の太い部分は枕木用に
製材工場へ、細い部分は木炭用に利用されたのだから、無駄がなく利用され、今のように10cm以下の間伐素材は山に
放置されることはないのです。

 ワインの熟成樽は現在ヨーロッパオーク(学名Quercus,robur、英名コモンオーク)が最適とされているが、フランスに置いても
その産地により良否あるといわれていて、北海道のミズナラでも旭川産と十勝産のミズナラの違いと良く似ている。

 つまりコモンオークの最良の産地と言われているフランスのアリエ、トロンセ地方、ヌベール地方、ボージュ地方で生産される
オークにおいても気候や生育する土地等の違いで木の性質は変化し年輪幅の大小により材は大きく異なるしタンニンの含有量に
差異ありワインに大きく影響すると推察できる。

 30数年前ワインつくりを始めた頃、本州のワインメーカーで働く技術者を池田町に招きワインづくりを始めた。そのとき技術者は
北海道のオークはワイン用樽に不向きと、何の根拠もなしに、述べていたのを思い出します。

 ヨーロッパでの2大オークのコモン(学名Quecus,robur)、セシル(学名Quecus,petraea)は共に酒樽と利用されていますが
共に同一地域に生育していることもあり種間雑種ができるのはもとより、コモンオーク一つ上げても各国で名称が異なり
ヨーロッパ地域だけで140種の別名が付けられて、ワイン関係者の間でも混乱しているという。
セシルオークはフランスのリムザン地方に多く産することからリムザンオークと呼ばれることもあって、ウィスキー樽に
最適といわれているが、ワイナリーによってはワイン樽に使用しているという。

 日本ではサントリーが北海道のオーク材を使用した樽で育んだウイスキーは、始めはまったく泥臭くて、とても呑める状況で
なかつたものが30年経過したら独特のいい味になったと加藤定彦氏は記述している。
また、ミズナラで作った樽よりカシワで作ったたるの方が長持ちしたという。